知識体系ガイド

知識体系というのは、英語「Body of Knowledge」の訳語で、ある専門領域についての知識や情報、技術、活動などを網羅した概念体系に対して名付けられた用語です。
知識体系ガイドは、その知識体系を整理して誰もが理解しやすくした手引きとなります。

一番よく知られている知識体系として、PMBOK(Project Management Body of Knowledge)があり、その知識体系ガイドとして書籍化されているPMBOKガイドは、2017年9月に最新の第6版が出版されています。

ソフトウェア開発においては、ソフトウェア工学(エンジニアリング)基礎知識体系:SWEBOK(Software Engineering Body of Knowledge)とソフトウェア品質知識体系:SQuBOK(Software Quality Body of Knowledge)という知識体系があります。

SWEBOKは、ソフトウェア開発者に向けたソフトウェア開発全般にわたる知識体系を、IEEE Computer Society によってまとめられたもので、ソフトウェア要求から設計、構築、テスト、保守といったソフトウェアのライフサイクルとソフトウェア開発で必要となる管理方法、構成、品質に数学的な基礎知識に至るまでが解説されています。

SQuBOKは、ソフトウェア開発を品質の視点から、日本科学技術連盟と日本品質管理学会が中心となり、品質の概念、管理、技術、それに加え国際規格や国際的プラクティスなども含めて網羅的にまとめた知識体系です。

SWEBOK

IEEE Computer Society はソフトウェアエンジニアリング標準を定める活動を実践し、1972年に「Transaction on Software Engineering」を発行し、その後もワークショップやセッションを繰り返し、1986年には「IEEE 1002 Taxonomy of Software Engineering Standards」という成果を得ます。
1990年からは国際標準の開発を進め、1995年に「ISO/IEC 12207 Standard for Software Engineering Life Cycle Processes」として完成させます。

それに先立ち、1987年にアメリカでソフトウェアエンジニアリング教育を担当する教官が集まり、CSEE&T(Conference on Software Engineering Edication and Training)が成立し、「ソフトウェアエンジニアリング知識体系(SWEBOK)」の構想が提案され、それに基づいて大学学部向けソフトウェアエンジニアリングカリキュラムが策定されました。その概要は「IEEE Software November/December 2005, pp96-97」に記載されています。

このカリキュラムは多くの大学で採用されることとなり、2000年代に入ると IEEE はプロフェッショナルエンジニア向けの知識体系を作成することとし、2004年に「SWEBOK 2004 (ISO/TEC TR 19759)」を公布しています。

そして、2013年になると、ソフトウェアエンジニアリングに起きた約10年の変化を反映させ改訂版が求められることとなり、「ソフトウェアエンジニアリング知識体系(SWEBOK)」として第3版を発行します。
第3版では、ソフトウェアエンジニアリングを学習し実践する際の前提となる知識領域が追加され、またエンジニアリングツールに関する記述が各工程に含まれることになり、より実務的なスタイルになっています。

SWEBOKの知識領域

ソフトウェアの開発工程をトレースする形で、
第1章「ソフトウェア要求」
第2章「ソフトウェア設計」
第3章「ソフトウェア構築」
第4章「ソフトウェアテスティング」
第5章「ソフトウェア保守」
という構成が組まれています。

次にソフトウェアの管理面から、
第6章「ソフトウェア構成管理」
第7章「ソフトウェアエンジニアリング・マネジメント」
第8章「ソフトウェアエンジニアリングプロセス」
が記述されています。

そして第3版では
第9章「ソフトウェアエンジニアリングモデルおよび方法」
が新設され、
第10章「ソフトウェア品質」
が続き、ソフトウェアの適正な開発方法が述べられます。

第11章「ソフトウェアエンジニアリング専門技術者実践規律」
第12章「ソフトウェアエンジニアリング経済学」
第13章「計算基礎」
第14章「数学基礎」
第15章「エンジニアリング基礎」
も第3版で新設されたもので、ソフトウェアエンジニアリングの学習や実践において有用な知識を体系化したものといえます。

ソフトウェア開発において、基礎的な知識領域を明確にしておくことは品質を確保および強化において、大きな効果が期待できるものであり、SWEBOK第3版の改訂内容は価値あるものと考えられます。

SWEBOKの品質関連情報

第10章として「ソフトウェア品質」が設けられており、ソフトウェア品質の特性と品質管理プロセスが定義され、品質を確認する方法としてレビューについて詳記されています。
テストについては、第4章の「ソフトウェアテスティング」で、テストの目的や手法および評価について、具体的に記述されています。
また、第15章「エンジニアリング基礎」では、分析手法や設計技法など、品質を確保する知識を確認することができます。

SQuBOK

日本の高度成長期に製造業を中心として発達した品質マネジメントの知見は、ソフトウェア開発に適用されて各企業で独自に培われていき暗黙知として蓄積されていきました。
その経験や知識を形式知化し、共有の知識財産とすることを目的として、「日本科学技術連盟SQiPソフトウェア品質委員会」と「日本品質管理学会ソフトウェア部会」の共同プロジェクトが2007年に「ソフトウェア品質知識体系(SQuBOK)」第1版を策定します。

ソフトウェア品質という視点での技術体系化は、他国からは生まれない日本独自の発想であり、「ソフトウェア品質に関する暗黙知の形式知化」と「ソフトウェア品質の関する最新テーマの整理、体系化」を目指しているものです。

そして、SQuBOKを基準としたソフトウェア品質技術者試験(JCSQE)の展開や外国語版への翻訳などによりソフトウェア品質の有用性が高まり、国際規格への対応、知識領域として設計開発プロセスの拡充、ならびに新たな知見の採り入れや現行記述の見直しを図り第2版を2014年に公開しています。

SQuBOKの知識領域

序章で 「SQuBOKガイド概略」 が述べられた後、
第1章では 「ソフトウェア品質の基本概念」 が定義され、品質マネジメントについて解説されています。

第2章の 「ソフトウェア品質マネジメント」 では、「組織レベルのソフトウェア品質マネジメント」として品質マネジメントシステムについてライフサイクルプロセスとプロセス改善の取組、「プロジェクトレベルのソフトウェア品質マネジメント」としてソフトウェア開発における計画時と各作業プロセスでのポイントが記述されています。

第3章は 「ソフトウェア品質技術」 として、工程に共通なソフトウェア品質技術と工程ごとの個別なソフトウェア品質技術、および専門的品質特性のソフトウェア品質技術について、具体的な技法の説明がなされています。

SQuBOKの利用

記述スタイルとして、各項目についての説明に続き、【目的】【方法】【効果】【留意点】【関連知識領域/トピックス】【参考文献】【関連文献】というフォーマットが用意されているため、理解や実践が容易となる工夫が施されています。

序章には、ガイド全体と各章ごとの「SQuBOK樹形図」が用意され、ソフトウェア品質に関する知識情報をビジブルに把握することができます。

品質への理解を深めることにより、ソフトウェアの品質は確保されると考えられます。
SQuBOKガイドは、ソフトウェアの開発者や品質保証に関わる技術者が参照すべきガイドブックとして位置づけられるものです。

 ブログランキング・にほんブログ村へ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする